食の空間を育む土壌の生成過程を表現
「San Ciro Fudomae」は、料理と空間の根源に土壌というテーマを据えたイタリアンレストランである。岩石が風化し、粘土となり、植物たちの命の記憶と溶け合うことで生まれる豊かな土壌。それは自然が長い時をかけて育んだ、生命の基盤だ。本計画では、その生成のプロセスを空間構成の原点とし、素材、色彩、質感において大地の記憶を静かに表現している。
計画地は東京・不動前の閑静な住宅街。都市の喧騒から一歩離れた静かな環境に呼応するように、店内には静謐な地層を思わせる重なりや、湿度を含んだようなテクスチャを空間全体に広げている。土、石、木といった原初的なエレメントを用いることで、訪問者がまるで大地の時間の中に身を置くような感覚を得れるよう構成している。壁面には、ニッケルとマンガンを用いて焼成された窯変タイルを採用。同じ色は一枚として存在せず、それぞれが異なる色合いを帯びて自然なムラを生み出し、空間に有機的なリズムとゆらぎを与える。 素材が持つ表情や空間に残された余白を引き出すことで、静けさと奥行きのある空気感を創出しようとした。空間に漂う静けさと素材の質感が、訪れる人の感覚をそっとひらき、身体感覚を通じて食と関わる体験へと導く。提供される料理は、イタリア各地の郷土料理を基盤に、日本の四季の恵みと重ね合わせて構成されており、一皿一皿に大地の息吹が宿る。見えない起点としての土壌に意識を向け、時間と記憶の層を感じさせる、食と空間の静かな対話を描き出す試みである。(中世古清門/GSC&Partners)
「San Ciro Fudomae」
所在地:東京都品川区西五反田6-18-18
オープン:2025年5月
設計:GSC&Partners 中世古清門
床面積:49㎡
客席数:21席
Photo:TOREAL 藤井浩司
【内外装仕様データ】
床:マイクロセメント左官仕上げ(マイクロトッピング/Ideal Work)
壁:オーダーメイドタイル貼り(織部製陶) マイクロセメント左官仕上げ(マイクロトッピング/Ideal Work)
天井:マイクロセメント左官仕上げ(マイクロトッピング/Ideal Work)
家具・什器:ブラウンアッシュ 天然大理石 ホワイトオーク突板貼り
中世古清門/GSC&Partners
なかぜこ・きよかど。1987年 山形県生まれ。2018年 ミラノ工科大学建築学部卒業。2024年 GSC&Partners合同会社設立 / パートナー。