






街の風景に溶け込みながら発信しコミュニティを醸成する空間
およそ1,300年前、役小角によって開かれたとされる霊峰・大峯山へと続く温泉郷・洞川温泉。標高約820mに位置し、日本独自の山岳信仰・修験道の聖地である大峯山で修業を行う行者さん(山伏)の登山基地として古くから栄え、旅館・民宿や、和薬の元祖とされる大和の名薬・陀羅尼助丸を扱う商店などが軒を連ねる。それらは講と呼ばれる大勢の行者さんの団体が一度に館内・店内に上がることができるよう、各々が通りに対して大きく開け放つことのできる縁側を持った造りとなっており、この洞川温泉特有の造りがまちに賑わいや独特の風情を与えている。そして、それはまちの人同士のコミュニケーションを容易にし、また、通りを歩く子どもたちをまち全体で見守る役割としても機能しているように思う。
当然の解ではあるが、同ブルワリーも通りに対して大きく開く計画とし、物理的にも思考的にもまちの一部になればという思いを込めた。内装には陀羅尼助丸をモチーフとした特注タイルや、ビールと同じく発酵することによって生成される柿渋を用いた和紙を採用し、また、改装前に喫茶店を営んでいたこの建物はいわゆる歴史のある建築物や古民家という訳ではないが、外観は必要以上に手を加えず、長い年月をかけて慣れ親しまれた風景をこれから先も引き継いでいってほしいと考えた。オープン後に訪れた際、観光客だけではなく、周辺の旅館などで働く人同士の仕事後のコミュニケーションの場ともなっていると聞き、少しずつまちの一部となっているように感じた。(坪井秀矩/坪井建築設計事務所)
「洞川温泉醸造所」
所在地:奈良県吉野郡天川村洞川226
オープン:2022年8月20日
設計:坪井建築設計事務所 坪井秀矩
協力:和紙/ハタノワタル 特注タイル/NOTA&design 照明計画/モデュレックス
床面積:56.25㎡
客席数:7席(スタンディング)
Photo:adhoc 志摩大輔
【内装仕様データ】
床:土間コンクリート金コテ押さえの上防塵クリア
壁:PBt12.5下地AEP ラスカットt9下地モルタル金コテ押さえの上防塵クリア
天井:PBt12.5下地AEP
家具・什器:カウンター/天板・St.PLt3.2 腰壁・和紙

坪井秀矩/坪井建築設計事務所
1983年奈良県生まれ。2011年坪井建築設計事務所設立。住宅等の建築設計から、飲食店やクリニック・オフィス等のインテリアデザインを手がける。華美な装飾を行うのではなく、様々な条件や要素を整理し最適解を導き出すことを主眼に設計を行う。







