鮨 かわさきや

築100年の木造平屋を地域の魅力を感じる鮨屋へ

私自身の地元である人口の少ない島根の小さな町において、長年修行をしてきた同級生が地元に戻り鮨屋をしたいという思いを受け、築100年近い呉服屋だった木造平屋を改装した店舗。この地域は少子高齢化や若者流出による人口減少と共に飲食店なども少なくなってきていて、生まれ育った地元が衰退していくことを憂いたことも計画の背景となっています。店舗区画の付近にはスナックや小さな居酒屋はあれど、空間デザインを意識した飲食店はありません。その中で鮨修行をしていた同級生からの依頼を受けて設計をすることになり、この地域の良さを表現し、そしてデザインされた空間での食体験を感じてもらえるお店として、遠くからでもこの鮨屋を目的に来てもらえるような空間づくりを目指しました。
店内は、築100年の建物の良さを活かすため、既存の天井は全て撤去し、小屋組みを現して建物の歴史を感じられるようにしました。カウンターは、杉の一枚板を用いて、まな板の天端と同じ高さにすることで舞台として調理の様子を感じられ、店主とお客の対話が生まれやすいように工夫しています。個室の間仕切りには、圧迫感が出ないよう少し光を透過する布を用いました。この布は特殊な技法で藍染めをしていて、地域の情景として根付く江の川の水面をイメージしています。藍染めの布を店内に連続させることで、普段気づかない地元の風景の美しさを空間に表現できればと考えました。
この町に限らず、地方では一つのお店をきっかけにその周辺が感化され地域が活性化していくことがあります。この店での食空間体験が、少しでも周りの人々の感性を刺激し、地域が変わっていくきっかけになってほしいです。(森岡寿起/SO-AN

 

「鮨 かわさきや」
所在地:島根県江津市江津町1520-158
オープン:2022年3月
設計:SO-AN 森岡寿起
施工:田中工務所
床面積:78㎡
PHoto:Ohtake Yosuke

【内外装仕様データ】
床:木軸床上げGL+400 シナ合板黒染色オイル仕上げ モルタル左官の上防塵クリア塗装仕上げ
壁:ラスボード下地土壁左官仕上げ PBt12下地クロス貼り(FE6142/サンゲツ
天井:天井小屋組現し 杉柾目100幅羽目板貼り
家具・什器:杉無垢材耳付きつや消しクリアウレタン仕上げ
その他:藍染めリネン


森岡寿起/SO-AN
2012〜2015年 株式会社SPACE。2015〜2020年 graf。2020年 SO-AN設立、2022年 株式会社SO-AN へ法人化。京都を拠点に、空間、建築、インテリアなど様々なジャンルをコンセプト、プランニングから手掛ける。主な受賞歴:iF DESIGN AWARD(ドイツ) 、日本空間デザイン賞、JID AWARD、JCD Design Award 等。

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