RETONA Hakone

箱根の自然を空間やアートに取り込み愛犬と人が対等に楽しめるホテル

 

箱根の国立公園内に広がる約1.6万㎡の豊かな自然を生かし、愛犬と人が対等に喜びを分かち合うことを目指した動物共生型リゾートホテルの計画。「Return to Nature」をコンセプトに、環境負荷を抑えながら実行できる計画として、既存建築の改修と新築を計画。建築・内装・家具に自然素材を多用することで落ち着きのある空間とし、人・愛犬・自然が心地よくつながる滞在空間を目指した。また、アートワークやサウンドスケープ、備品に至るまでコンセプトを一貫し、1つのチームでディテクションすることで、全てが連動した環境を作り出している。
計画地は、自然公園法の最も厳しいエリアに位置し、建て替えは既存建物と同等のもののみ建設可能となる場所であった。自然環境の保護の観点から、共用部棟(ラーメン構造)は改修を、客室棟(壁構造)は新築をする選択をした。既存の46室の客室を14室まで減らし、ワイドスパンの客室を創出し、愛犬と過ごすために十分な面積を確保し、庭との接点を多く持つ贅沢な配置としている。
改修棟では、既存躯体の柱と梁を生かした大胆な吹抜けを設け、既存の段差を緩やかなアンジュレーションでつなぐことで新たな「大地」を創出。自然素材を基調とした空間構成により、建築の内と外がシームレスにつながる環境を実現した。
新築棟では、既存建物と同様の建築しか認められないことを逆手にとり、客室ユニットは11m、13.8mのワイドスパンとし、2.5mのハイサッシをベースに、庭とつながるパノラマと開放感を目指した。“コンクリートの柔らかさ”をテーマにしたブラスト加工とR目地を施した特徴的なコンクリート壁が、構造・内装・塀・遮音の機能を一体的に担う合理的な客室を構築。箱根の自然を取り込む大開口サッシ、全室温泉ビューバス、プライベートドッグラン、インナーテラスを備え、愛犬とともに思い思いの時間を過ごせる滞在空間となっている。
エントランスは既存躯体を生かした改修の計画であった。既存は柱梁のみ残し、それ以外は床も全て撤去し、大胆に改修を実施。コンパクトな空間にレベルの異なる床があったため、全てを地形のようにシームレスに繋ぎ、新たな地形を創造した。仕上げ材は屋外で使用する建材を用いることで内外を一体の仕上げとし、愛犬も違和感なく内部に入ってくるようにした。デザインは既存部コンクリートを整える程度にとどめ、直線的な柱梁のみを表出し、新たに挿入した階段やベンチは曲線を用いる構成とした。また、それらを適宜止めるものとしてグリッド照明を考案した。広がりを感じられるように空間の角になる部分に間接照明のバーを入れることで奥行き感を演出している。階段の手すり子は、通常110mmピッチだが今回は80mmピッチとしている。これは小型犬でも落ちないピッチのサイズ。そのため、より繊細なデザインになるように手すりをできるだけ細くし、手すりだけにとどまらない領域分けのデザインとして取り込むことで高級感を演出した。マテリアルや高さ、床レベルを操作することで外部のような内部空間を実現している。
インナードックランでは、「人の佇む空間」と「愛犬が遊び回る空間」が共存する。ここでは中心性を持つ円の特性に着目し、視線の誘導。内向くことで集中、外向くことで拡散する。その構成をバランスさせ、コンパクトな中にも自分と愛犬だけの空間を作り出せるようにした。また、床を積む、くり抜くことで高低差による視線の変化を作った。居場所によって異なる方向に視線を誘発することができる。緩やかな曲線で囲われた走り場でわんちゃんは遊び、その周りで、飼い主とわんちゃんがゆっくり過ごせるような「静」と「動」の両方を持つ空間となる。屋外には改修前の露天風呂の塀を生かしたテラスも併設し、ノミが気になる愛犬家の方も存分に楽しめるようにした。
このほかマイクロバブルシャワーをメーカーと調整し、両サイドから使える、利き腕がどちらでも使用しやすいグルーミングルームを提案し、ストレスなく使えることを考えた。手前の空間は腰を曲げずにドライヤーで乾かせる台にもなり、愛犬家の負担を極力減らすように考えられている。
ダイニングは、4つの個室と4つの半個室と5卓のオープ席を持ち、どこからでもドックパークを眺められるように計画した。中央最前面にオープン席と個室を設け、半個室は窓から離れる場所に設定したが、フロアレベルを上げることで、視線の差を生み、外部を望めるように工夫した。半個室部は傾斜する版築仕上げで、隆起した地面を穿ち、個室を作ったようにデザインした。そのため角のないRの形状とし、ある種の洞窟感を演出している。またハイサイドライトがあるため、そこからの光を取り込むボイドを設け、明るい空間となっている。中央に構えるのはラウンジを前後に分けるコンクリートで作られた「グニャ壁」。このグニャ壁は、デザイン的に非常に重要なコンテンツになるため、型枠の作り方から検証し、意図的にコールドジョイントやジャンカを作るという、かつてない方法をとった。結果、非常にインパクトのある、仕切り壁ができた。H1500mmの仕切り壁があることで、愛犬同士は視線が合わず、オープン席であっても飼い主との時間を楽しめるようにした。テラス席も設け、ドックパークを望みながら朝食が食べられる場となっている。
客室は、7つのタイプで構成される。「デラックスツイン(A-type)」は、11mのワイドスパンに、ベッドルームからリビングまで一体化し、広がりを最大化した。一方で廊下の両サイドに建具を設け、行き止まりをなくすことで回遊性のあるプランとし、奥行き感を演出。壁と塀を同一にすることで、内外が同等に扱われるようにした。浴室はワイドを重視したビューバスとし、開放感を生み出している。
「デラックスツイン(B-type)」は、本ホテルで一番コンパクトだが、開放的な森と空を独り占めできる部屋。南側に向かって全ての家具を配置し、自然を満喫する特等席のようにした。ベッド・ソファは1つの大きな家具となるように見せ、ヘッドボード上の特殊コンクリートは本ホテルの最大サイズの壁となる。浴室とリビングの交差点にはインナーテラスを配し、どちらからも外気を取り込める様に計画した。
「ラグジュアリー(A/B-type)」は、リビング、寝室、和室を持つ、ファミリーユースを考慮した客室。どの部屋からでも庭を感じられるよう書室を配置。一方で室同士のつながりも大切にし、寝室とリビングは壁が連続し、リビングと和室は角がない建具とすることで、一体感と適度な距離感を実現した。
「ラグジュアリー(C-type)」は、サンルーム(中庭)で部屋を仕切るプラン。玄関を開けると圧倒的な開放感で自然の中にと売り出された様に感じる。印象的なハンギングソファが設置されたサンルームと全スパン(11.8m)がサッシとなった開放的な空間となっている。窓際は自由に使える場とし、廊下側は天井を抑えた機能を有する諸室を配置した。サンルームの建具を開けると寝室、サンルーム、リビングは一体となり、愛犬が走り回ることができる。
「プレミアムスイート(A/B-type)」は、客室の3面に採光を持つ客室で、風が通り抜ける構成はホテルとしては珍しい。どの部屋からも異なる庭の風景を取り込むことができる。独立した和室は、多世代による宿泊に対応する。他の部屋に比べ窓のワイドがない分、高さは2.7mとした。広さに応じキッチンも設置し、長期滞在可能な部屋とした。また、B-typeの天井は屋根形状と同様の高さを有し、ハイサイドライトを設けている。
「ヴィラスイート」は、完全独立したヴィラタイプのメリットを持ちながら、ホテルのフルサービスを受けることができる客室。個別のエントランスから他の客に会うことなくアプローチできる。廊下空間はギャラリーになっており、植田志保氏によるアートが飾られる。リビングは吹き抜けを有する大空間で75インチのテレビとバイオエタノール暖炉を設置。リビングからつながるテラスは浴室とも一体化し、露天風呂のように使用可能。浴室は最大規模で、愛犬と一緒に入ることができる。独立したダイニングがあり、シェフズキッチンとしても利用可能。2階には書斎と寝室を有している。
このほか、建築・内装においてコンセプトである「Return to nature」のもと、自然素材を使用し、シンプルで落ち着きのある空間に、アートワークで色をつけていくことを考えた。各アーティストにコンセプトを説明し、それぞれが解釈した「Return to nature」を表現している。また、アーティストとの対話の中からキーワードを探り、それを建築内装空間にも反映していくというプロセスを踏むことで、他にはない空間となった。(杤尾直也/to-rippple)

 

 

「RETONA Hakone(リトナ箱根)」
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町元箱根164
オープン:2025年12月15日
設計:to-rippple 杤尾直也 平田 栞 廣瀬雄一郎(元所員) 尾瀬優香理 加藤高浩
照明計画:lightlinks 永野俊哉 田中康一
構造設計:コウゾウケイカクロナンナン タカハシヒロカズ タカハシヒロコ
電気設計:EOSplus 高橋 翔 田中佑介
機械設備:Gn設備 五木田正和
外構設計:マインドスケープ 柳原博史
サイン計画:UMA / design farm 原田祐馬 山副佳祐
音響計画:vegetable records 林翔太郎 三上僚太
ショップ計画:CHAL 青木智里 福島志穂
家具デザイン:to-rippple 杤尾直也
アート:植田志保 塩澤元基 五十嵐和紙 GRAPHITICA
施工:フジタ
面積:敷地面積/16,528.29㎡ 建築面積/2,847.06㎡(新築851.71㎡、増築部1,995.35㎡) 延床面積/3,781.64㎡(新築1,384.82㎡、改修部2,396.82㎡)
客室数:15室
Photo:見学友宙

 

 

【内外装仕様データ】
外装:外壁/コンクリート躯体特殊目地型枠の上バキュームブラスト+静電反発塗料 版築(西澤工業) 開口部/アルミサッシ(三協アルミ) サイン/掘り込み版築仕上げ コンクリートショットブラスト SUS.t3切文字加工ブロンズメッキミガキ仕上げピン立て
床:ロビー/コンクリート金ゴテ仕上げ土間舗装(ハネダ化学) レストラン/モルタル金ゴテ仕上げ磁器質タイル貼り(名古屋モザイク工業) インナードッグラン:合板t15下地リノリウム(田島ルーフィング) 磁器質タイル貼り(名古屋モザイク工業) 客室/合板t15下地複合フローリングW300貼り特殊塗装(ハレトケ) 和紙畳(大建工業) 磁器質タイル貼り(名古屋モザイク工業)
壁:ロビー/LGS組みGBt12.5下地左官仕上げ(四国化成) レストラン/GBt9.5二重貼り下地左官仕上げ(四国化成) 塗り壁仕上げ(アイカ工業) 磁器質タイル貼り(名古屋モザイク工業) 客室/LGS組みGBt12.5下地 特殊型枠コンクリートにバキュームブラストの上保護塗料(大日技研工業) 塗り壁仕上げ(四国化成、ポーターズペイント) オーク突板パネル(大東工藝) 磁器質タイル貼り(名古屋モザイク工業)
天井:ロビー/LGS組みGBt9.5二重貼り下地AEP塗装、塗り壁(エスケー化研) レストラン/LGS組みGBt9.5下地 ビニルクロス貼り(リリカラ) 客室/LGS組みGBt9.5、ケイカル板下地ビニルクロス貼り(東リ、リリカラ) アルミ不燃パネル(シンワ)
その他:オリジナル家具、オリジナル照明(セブンスコード) レースカーテン/染色レース、ロールスクリーン(BATON) サイン/人工大理石Vカット+塗装

 

杤尾直也/to-rippple
1983年兵庫県生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻(建築・環境デザイン)修了。株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル、オフィス、飲食店など多様な設計を手掛ける。2017年に株式会社to-rippleを設立。「状況のデザイン」をテーマに建築設計、インテリアデザイン、家具・備品のデザイン、ネーミングなど建築の枠を超えたデザインを手がけ、心地よい体験をプロデュースしている。東北大学大学院工学研究科 非常勤講師。

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
   
お手掛けの物件や、新製品・イベントなどの情報は下記フォームよりご連絡ください。情報はこちら  

広告掲載について